TAX基礎講座:
2. 海外進出支援

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Q. 企業が海外に進出する際、税務面から考慮すべき点は何ですか?

グローバルに活動する日本企業が増える中、海外に進出した企業が頭を悩ます問題の一つに、税金の問題があります。税務面だけでも考慮すべき点は多岐に渡りますが、例えば、①進出形態をどうするか? ②グループ間での取引価格をどうするか? ③現地課税がどうなるか? ④資金調達をどうするか? ⑤資金還流やクロージングをどうするか? によって課税関係が異なってきます。

まず、①進出形態によって、恒久的施設課税(以下、PE課税とします)やタックスヘイブン対策税制(以下、CFC税制とします)を考慮する必要があります。

進出先国における納税義務については、一般的に恒久的施設 [1] があるかどうかで決まります。例えば、支店形態で海外進出した場合、その支店は恒久的施設に該当し、現地での所得に対してPE課税が行われます。逆に日本企業が海外で事業を行っていても、進出先国に恒久的施設を有していない場合には、その進出先国において課税されることはありません。「恒久的施設なければ課税なし」という考え方が、事業所得課税の国際的なルールとなっているからです。しかしながら、この「恒久的施設」に該当するか否かの判断についても、その進出先国の税法に従うこととなり、また、日本の税法の概念と必ずしも同じになるとは言えないため、現地の税制を確認する必要があります。

また、子会社形態で海外進出した場合、親会社とは切り離され、現地法人としての課税が行われます。しかし、軽課税国に所在する子会社の所得については、一定の要件を満たす場合に限り、親会社が有する出資割合に応じて、日本の親会社の所得に合算して課税されます。これがいわゆるCFC税制と呼ばれるものであり、その適用の可能性を検討するためには日本の税制に基づいて確認することになります。

次に、②グループ間での取引価格をどうするかという点に関しては、移転価格税制(以下、TP税制とします)を考慮する必要があります。

例えば、日本の親会社で製造した製品を海外の子会社に販売する際、適正な取引価格よりも低い金額で販売してしまうと、日本での所得が減少し、海外の所得が増加することになります。このような海外の子会社との取引を通じた所得の海外移転を防ぐために、適正な取引価格で行われたものとみなして課税するというTP税制が設けられています。
しかも、この税制は租税回避の意図がなかったとしても、結果的に適正な取引価格と異なる価格設定であると判断されればTP税制の対象となりますので、子会社との取引価格の設定にあたっては、細心の注意を払う必要があります。これは、日本→海外への所得移転だけでなく、海外→日本への所得移転についても、現地の税制によって課税される可能性があるため、両国の取扱いを確認する必要があります。

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さらに、③現地課税がどうなるかという点も考慮する必要があります。
法人税以外に考慮すべき現地課税の代表的なものとして付加価値税(以下、VATとします)や海外勤務者の個人所得課税があります。

VAT(国によってGSTと呼ばれる場合もあります)は現地での物品の販売やサービスの提供に対する税金であり、日本の消費税に相当するものです。 多くの国では、現地でのVAT登録が必要であり、これを失念すると仕入税額控除 [2] を受けられなくなり、思わぬコスト増につながる可能性があります。

また、海外進出にあたっては、法人に対する課税に加えて、社員個人に対する課税についても考慮する必要があります。例えば、出張等により海外支店で勤務したことに起因した給与について、日本の居住者であっても現地で課税されることがあります。この場合、出張先国との租税条約により現地の課税を免税にする条項 [3] があれば、一定の要件を満たすことで、日本での課税のみになります。
なお、出向等により1年以上海外で勤務する場合には、日本の居住者ではなくなりますので、現地での勤務に起因した給与については、現地での課税が行われます。

また、④資金調達をどうするかによって、過少資本税制や過大支払利子税制を考慮する必要があります。
海外子会社が日本の親会社から資金調達を行う場合、追加出資または親子間での貸付けを行うことが考えられますが、貸付けとした場合には、現地における過少資本税制や過大支払利子税制を考慮する必要があります。これは、支払利息が損金 [4] 算入されることを利用し、出資ではなく貸付けを多くすることで、所得を圧縮しようとすることを防止するための税制であり、一定金額を超える支払利子については、損金算入が認められなくなりますので、注意が必要となります。
一方で、いくつかの国においては、一定期間後に強制的に償還される優先株式を発行した場合、税務上資本ではなく借入れとみなされるハイブリッドファイナンスと呼ばれる手法があります。この制度を利用して資金調達を行った場合、海外子会社が配当金として支払った金額は、現地において支払利息として損金算入(ただし一般的に過少資本税制等の対象となります)されるうえ、受取側の日本の親会社においては、配当金の95%が益金不算入(免税)となります。このように、税制の違いを利用したストラクチャーを構築できる場合もあります [5] (ただし、昨今はルールが厳格化しており、節税目的でこのようなグループファイナンスを行うハードルが上がっている状況であるとともに、企業の法令遵守の方針からもその適正性について十分な検討を要します)。

最後に、⑤資金還流やクロージングをどうするかに関しては、特に源泉税(以下、WHTとします)等を考慮する必要があります。

例えば、資金還流を子会社からの配当金とした場合、一般的に日本の親会社においては、その95%が益金不算入(免税)となります。ただし、残りの5%部分は課税となりますし、配当の際に源泉徴収された税金は、損金不算入となるとともに外国税額控除 [6] の適用はありません。一方、ロイヤルティ等により資金を還流させる場合には、その全額が日本において課税されたうえで、現地の税制に基づき源泉税が徴収された金額を税額控除の対象とします。

海外進出する際には、最初からクロージングまで考えるケースは少ないかもしれません。しかし、現地子会社や事業譲渡ではなく、単に株式を第三者へ譲渡する場合であっても、株式の発行会社である現地子会社が所在する国において課税される場合がある等、思わぬところで課税が発生する可能性がありますので、現地における税務上の取扱いや課税当局のスタンスを含め、税務リスクを低減するためにクロージングまで気が抜けません。

このように企業が海外進出する際、税務面から考慮すべき点は多岐に渡りますが、「現地の税制」、「日本の税制」、両国間で結ばれた「租税条約」の3つのルールの観点から検討することがポイントになります。

  1. 1 恒久的施設(「Permanent Establishment」)とは、企業活動を恒久的に行っている場所として一定のものをいいます。国際税務に関する概念で、外国法人に対する課税の根拠となるものであり、定義は各国によって異なります。
  2. 2 支払ったVATの控除や還付を受けること。
  3. 3「短期滞在者免税制度」
  4. 4 税務上の費用として取り扱われる支出。
  5. 5 ただし、昨今は国際的なグループ間取引を通じた税逃れの問題(税源浸食と利益移転問題)への取り組みの結果、各国におけるルールは厳格化しており、節税目的でこのようなグループファイナンスを行うハードルが上がっている状況であるとともに、企業の法令遵守に取り組む姿勢が一般社会に悪い印象を与えてしまうリスクの(レピュテーションリスク)の観点からもその適正性について慎重な検討を要します。
  6. 6 海外で支払った税金について、日本で支払う税金から控除される制度。

Q. 日本企業の海外進出にはどのような形態がありますか?

企業が海外に進出する場合、まずは出張ベースでの市場調査から始まり、次に現地に担当者を置き販売(輸出)のための活動を行い、その後に ①支店・子会社を新規設立、または ②現地企業を買収して子会社化することによって海外進出をするといった流れが一般的です。この場合、現地に支店をつくるか、それとも子会社を設立するかという選択によって、グループ全体での課税関係、とりわけ税引き後キャッシュフローが大きく異なる場合があります。

例えば、ある日本企業がA国に進出するとします。その際、まずは社員がA国に出張し、市場調査を行います。この時点では、A国において事業活動を行わず、恒久的施設を有していないため、原則としてA国における課税関係は生じません。

次に、市場調査の結果を受け、出張先のホテルを拠点として、A国で販売活動を行うとします。この場合、ホテルの一室であっても、事業活動の拠点として利用している場合には、恒久的施設として認定され、A国での所得について、現地の税制に基づいた課税が行われる場合があります(この場合の「恒久的施設」は日本本社の会社組織の一部であるため、その日本企業が現地の税金を負担することになります)。

その後に、販売活動が順調だったため、A国に支店を設置することとします。支店等の固定的な施設は、典型的な恒久的施設です。したがって、上記と同様の課税が行われます。

上述したとおり、日本企業が稼いだ所得は、その源泉が国内にあるか国外にあるかにかかわらず全て日本で課税が行われる [7] ことになります。同じ所得について海外でも課税を受けた場合には、その税金について、日本において外国税額控除を行うことで二重課税を排除することとなります。

一方、支店ではなく子会社を設立した場合には、現地法人として現地税制に基づく課税が行われ、日本においては課税が行われません [8] 。この場合、日本企業とは別法人になるため、現地法人が現地の税金を負担することになり、その後の残余利益を日本の本社に配当として支払うことになります。

このように日本企業が海外進出する場合、進出形態によって課税関係が異なってくるため、どのような形態をとるかが重要な要素の一つになります。また、上述のとおり出張や支店設置の場合には、恒久的施設として認定されるかどうかが、課税関係を考える上でのポイントになります。

  1. 7 全世界所得課税といいます。

Q.「支店」と「子会社」は何が違うのでしょうか?

「支店」と「子会社」は、営業活動を行う拠点であるという点では同じですが、独自に法人格があるか否かという点で異なり、それに伴い課税関係も大きく異なります。

「支店」は、独自の法人格を有さず、本社の会社組織の一部を構成します。
その特徴から、日本の本社においては、上述のとおり海外での所得を含めて課税(全世界所得課税)が行われます。一方、海外支店は、前述のように恒久的施設に該当するため、現地においても課税が行われることから、国際的な二重課税が生じます。そこで、外国税額控除を用いて、外国で課税された税金を日本の税額から控除することになります。

「子会社」は、親会社に議決権の過半数を保有されている会社等でありますが、親会社とは別の法人格を有します。
その特徴から、法人ごとにそれぞれの国で課税が行われます。ただし、租税回避防止等の観点から、様々な制度が設けられており、これらの視点が欠けると大きな税務リスクが生じます。なお、子会社についても、二重課税の排除という観点から、外国税額控除や配当の益金不算入(免税)制度が設けられています。

  1. 8 CFC税制の適用が行われない場合に限る。
【支店と子会社の課税関係】
  日本での課税 海外での課税 両国の調整
支店形態 全世界所得課税 PE課税
(現地税制による)
【二重課税の排除】
外国税額控除
子会社形態 親会社
(日本)
全世界所得課税 なし [9] 【二重課税の排除】
外国税額控除
配当の益金不算入

【租税回避の防止および適正な課税権の配分】
CFC税制
TP税制
過少資本税制
過大支払利子税制
子会社
(海外)
なし 課税
(現地税制による)

Q. 税理士法人がそうしたコンサルティングを行う強みとは何でしょうか?

ビジネスのスケールが大きくなるほど、税のインパクトも大きくなります。
企業活動のグローバル化に伴い、新たなビジネスモデルを武器に、複雑なテクノロジーやサプライチェーンを伴うビジネスが各国で展開するケースが増えていますが、そのために不可欠なのが企業グループ全体を俯瞰し、事業活動の一部として税コストの全体最適化を図っていくという視点です。
海外展開に伴う税の最適化という視点が欠けると、不要な税金支出により株主価値を棄損してしまう可能性や、各国税務当局による予期せぬ課税リスクが顕在化してしまうことになりかねません。
各国における複雑な税制を理解し、その改正動向にも注意しつつ複雑なビジネス環境において税コストの全体最適化を達成するためには、日本のみならず、グローバルなネットワークを有する税務専門家によるコンサルティングが不可欠です。
私たちにはクライアントの目線に立ってその期待に応えてゆくため、専門知識の習得のみならず、論理的に考えつつ効率的にプロジェクトを推進し、クライアントと適切なコミュニケーションが図れるコンサルタントとしてのスキルが今まで以上に求められています。

クライアント自身が、組織構造やビジネスモデルに内在している税務上の課題に気づいていないことも珍しくなく、このような隠れた税務上の課題を認識していただくための働きかけからプロジェクトを開始することもあります。企業グループ全体の財務的なインパクトが非常に大きいため、役員クラスの事業本部長やCFO(財務責任者)と直接コミュニケーションをとりながら税務コンサルティングを実施することも珍しくありません。しかもその成果が国境をまたいだ事業モデルの意思決定に影響を及ぼし、企業価値の向上を通じた社会貢献が実現できるのですから、非常にやりがいがあり、ダイナミックでスケールの大きな取組みです。これこそがグローバルのネットワークを有するファームの強みであり、仕事としての国際税務コンサルティングの魅力は、このようなグローバル経済の一翼を担う役割を実感できることにあると言えるでしょう。

  1. 9 配当金やロイヤルティに対する源泉徴収を除く。

Summary

  • 海外進出する際の課税関係は、「現地の税制」、「日本の税制」、両国間で結ばれた「租税条約」の3つのルールの観点から検討することがポイントになります。
  • 企業グループ全体で包括的な視点からビジネスと税コストをどのように最適化していくかという発想が、税務コンサルタントには求められます。
  • そのためには、専門知識の習得のみならず、クライアントとのコミュニケーションなど、いわゆるコア・コンサルティング・スキルを身につけることが大切です。
  • 企業活動を各国の複雑な税制や国際的なルールに照らして多角的に分析する必要があるため、グローバルなネットワークを有するファームに大きなアドバンテージがある分野と言えます。